2013年12月24日火曜日

清水ひさし詩集 かなぶん

清水ひさし詩集 かなぶん ができました!


2013年12月25日 四季の森社 発行
ISBN978-4-905036-06-7 C0092
本分176頁 A5変形上製本 定価1400円+税
著者 清水ひさし
絵 池田朋之




書店にまわるのは年明けかもしれません。
著者の清水ひさし(しみずひさし)さんは一九四八年二月、種子島のお生まれです。
詩歴は長いのですが、はじめての詩集になります。まさに待望の詩集です。

この詩集は私が言うのも変ですが、素晴らしい詩集なのです。
詩の好きな、こころあるひとにはぜひ読んで欲しいと思っています。
ご参考までに以下、詩を数編、それにカバー画像も添付しました。



 野原のまほうびん   清水ひさし


野原にすてられた
古いまほうびんが
ぼんやり 空をながめている

自分はいったい何だったのか
どんなまほうを使っていたのか
おもいだせそうなのに
とんとおもいだすことができないで
あんぐり 口を開けたまま
空をながめている

まいったなあ
おれも年をとったなあって
まほうびんがつぶやいている

でも
なんの なんの

だれかに少しでも喜ばれると
ことわりきれなくってねぇなんて
おなかに ボウフラ泳がせる
今の仕事
ちょっぴりはにかみながら
今日も精を出している


 ハエ   清水ひさし


ハエは
ほしたふとんが好き
お日さまの当たるえんがわが好き
しっぽで追われても
牛や馬が好き

きらわれても
きらわれても
ぬくもりのあるものが好きなのは
たぶん
うじ虫の頃から
あたたかな思いをしたことがないから

ハエは
ほしたちゃわんが好き
台所の天井が好き
豚や人の背中が好き

しっぽや
ハエたたきで叩かれても
それでも
ぬくもりのあるものが好き



 うお   清水ひさし


うおうおをおう

にげるうおおううお

うおおううおをおううお

にげるうおうおうさおう

うおうようようようようようよ

うようよのうおうさおうのうおおううお



 鍵のない島   清水ひさし


わたしの生まれた島には
泥棒がいませんでした

どの家にも
鍵はありませんでした
どの家も貧しく
似たような生活ですから
盗むことも
盗まれることもないのでした

ツワブキ
浜セリ
ナガラメ
モハミ
それらを食膳にのせるのが
島の人のぜいたくでした

海の幸
山の幸は
豊富にありました

しかしきびしい島でもありました
夏から秋にかけて
台風の通り道となり
しばしば作物は荒らされるのでした

台風で家が壊されると
人々は
何はさておき集まり
家を建てるのでした

人が共同しなければ
生きていけない島でした



 秋風   清水ひさし


今日一日
すすきが空に描いた雲を
秋風が
せっせと掃き集めている

雲を描くため生まれてきた
すすきたちのため

すすきたちが 思う存分
明日の雲を
空に描けるよう

秋風が空を新しくしている



 トンボ   清水ひさし


おまえの悪口を
聞いたことがないな

ときどき 石にとまって
石を嚙んでみたり
目玉を大きくまわしてみたり

ふるさとを思い出させたり
そっと 秋を知らせたり

なんのかざりもなく
なんの無理もなく
肩に なんの力も入れず
飛びまわっている おまえ

つくった愛らしさでないんだな
自然のまんまに
生まれてきた そのまんまに
生きているんだな



 ひとひらの雪   清水ひさし


あ 雪 と思ったら
ひとひらの梅の花でした

わたしの頭上を 通りすぎるとき
小鳥がこぼしてくれたものでした

わたしは 立ちつくし
ひとひらの雪に見とれていました

雪のふらない ふるさとの
南の島のことでした

あの 五十年以上もむかしの雪が
今も わたしの瞼に降ってきます

あなたのような 身の上の者にも
いいこと いっぱいありますよと

小鳥が わたしにこぼしてくれた
あの ひとひらの雪