2015年1月9日金曜日

久保恵子詩集めぐみちゃん

久保恵子詩集めぐみちゃん  絵たかせちなつ 

  2014年 12月15日発売  定価1200円+税


 この詩人の作品は、生きる主体としての自分の思考とそのこころの襞を非常に丁寧に観察し、表現しています。それゆえに詩の一つ一つには生きる倫理とでもいう ようなものがうかがわれます。しかもメッセージ性が強いので、読む人の現実を内側から問い、支え、力づけ、変えていく大切ななにかがあります。
 作者は教師だったので、おそらくそこには80年代の教育現場での上からの締め付け=日常管理の徹底化という背景があるかと思います。特に日本の社会では集団の倫理の問題なのに個人的な倫理が問われるのです。その葛藤のなかから生まれた世界だと思います。




久保恵子詩集めぐみちゃんから



 めぐみちゃん
 

めぐみちゃんは 動作がおそいんです
何をするのも 他の子のあと
テストを やりおえるのも
さんすうセットを かたづけるのも
体そう服に 着がえるのも
走るのも
給食を 食べおえるのも
おおかた びりです


でも そんなこと
めぐみちゃんは たいして気にもしてないし
他の子たちも いつのまにか
めぐみちゃんが のろいのは
ごくあたりまえのような
気がしているみたいです
 

めぐみちゃんは
友だちが にぎやかに遊んでいるときも
よく ぼんやりと
空を見つめて すわっています
めぐみちゃんのめがねには
めぐみちゃんにしか見えない 何かを
見させる力が あるのかしら
めぐみちゃんは いつも
不思議な 夢の世界にいるみたいです
 

でも いつだったか 朝の会のときに
「けさ あかいあさひを 見ていました」
と 意外なほど
はっきりした声で 言いました
 

わたしは そのとき ハッとしました
わたしも その日
きれいな朝焼け雲を 見たのです
じっくりながめていたいような空でした
それでも 一分をおしむ
あわただしい朝のこと
少しずつ色あいを変えていく 美しい空を
ただじっとながめているなんて
かなわぬ夢でした
めぐみちゃんは おそらく
じっと 見つめていたのでしょう
 

そして きょうの朝
また日直になった
めぐみちゃんの発表のとき
「ゆうべ まるいお月さんを見ていました」
と しあわせそうに 言ったのです
 

ゆうべの月を わたしも 庭先で
しばらく ながめていました
冷えきった夜空に
こうこうと輝く月
いくつかの星々も
どんな宝石よりもきれいに
またたいていました
とても明るい夜空で
うすく綿をのばしたような 灰色の雲が
こく うすく 色あいや形を変えて
流れ 流れていくのが よく見えました
 

「めぐみちゃんのように
空や お月さまが きれいだなあって
思う心が とてもだいじなのです」
わたしは 朝の会のあと
1年生の子どもたちに それだけ言うと
さんすうの授業を 始めました
 

でも 一時間かけてでも
子どもたちに 語ってあげればよかった
夜空の美しさ
早朝のすがすがしさ
わたしたちは たえまなく変化している
大きな自然に つつまれていること
そして わたしたちも
その中の一部であることを